背中が痒い!

患者さんは片手をあげて私を呼び止めた。

「手術したところ痒いわ~」と言った。

「コルセットしているから、痒いですね~」

といって、通り過ぎた。

 

そのあとすぐに、彼は別の看護師にも

「手術したところ痒いわ~」と言った。

その看護師は、

「痒いんですね。みてみましょう。」といって、患者さんにベッドに横になってもらい、コルセットをはずして手術をした背中をみていた。

「傷口は、きれいです。テープかぶれもしていません。コルセットで赤くなったりしていませんね。でも、痒いんですよね。搔いておきますね。」

「うおお~気持ちいい!もうちょっと右、もうちょっと左、ありがと、ありがと、よかったわ、傷口も順調で。」

 

悔しいけど、私の存在は看護師ではなかった。ただの通行人だった。

そして、患者さんは、背中が痒いことだけを言いたいわけではなかった。ちゃんと治っているのか?コルセットが窮屈だ、テープかぶれしていないか、手術をしたのは間違いではないのか、足のしびれは残っているぞ、いろいろいろいろ、言いたいことあったはず。気がかり、不安、心配、不快感、不信感、疑問が渦巻く患者さんの心の内を1つたりとも察することのできない私だった。

ちゃんと足を止めて、患者さんのほうに体を向けて、話を聴いて、目で診て、手で触って、関心を寄せないと看護ではない。

Aさんは、70歳の男性、腰部脊柱管狭窄症。手術は、腰椎椎体間固定術。長らく、下肢のしびれや痛みに悩まされてきた。残りの人生、まだまだやりたいことがあると、一念発起して手術に臨んだのだ。

 

「俺の話を聴け」と言って、しゃべり始める患者さんばかりではない。たくさんお話をしてくれるからと言って真意であるとは限らない。忙しいからできないとか経験が浅いからできないとかではない。

「看護師は看護に専心すること」と私に教えてくれた患者さんだった。

「看護」とは何かについて考えていくことを意図として、「看護師日記」を書くことにしました。私の看護師、看護教育の経験に基づいて表現していますが、人物が特定されないように、また文脈を損なわないように一部修正しています。