さるむき
夜勤の朝、下膳に回っていた。
患者さんが、みかんを残していた。というより、途方に暮れていた。
患者さんは、みかんをむくことができない。朝はとくに思うように指が動かない。
「すみません。みかん、むきますね」「ありがとう」
私がみかんをむき始めると、患者さんは大声で笑った。
「さるむきやね~看護師さん、和歌山?」
「はい。実家はみかん農家なんです」
「上手にむきはるわ」
みかんの皮をむいて、大笑いされることも、褒められることもなかったけれど嬉しかった。
指の不自由な患者さんとみかん農家出身の看護師が巡り合ったという話ではない。
食べることのできないみかんが、いつまでも床頭台の上に残っているのは「看護ではない」ということを突き付けられた話なのだ。
「看護」とは何かについて考えていくことを意図として、「看護師日記」を書くことにしました。私の看護師、看護教育の経験に基づいて表現していますが、人物が特定されないように、また文脈を損なわないように一部修正しています。