白浜町の認知症ケア
白浜町には、「徘徊しても、ちゃんと帰ってくる」おじさんがいます。
長年この町で洋服店を営んできたその方は、今は認知症をかかえて自宅で奥さんの介護を受けながら暮らしています。
ときどき、散歩にいくような感じで、結構遠くまで出かけてしまうことがあります。いわゆる「徘徊」です。
でも、しばらくすると、誰かの車に乗ってちゃんと帰ってくるのです。
なぜ、彼は無事に帰ってくるのでしょうか?
それは、白浜町が「小さなコミュニティで在宅の認知症ケアを支え合っている町」だからです。
白浜町では、彼のことをみんなが知っています。
「昔からよくしてくれた洋服屋さん」「いつも気さくにあいさつをしてくれる人」として、町の人たちの記憶の中に存在しています。だから、認知症になって徘徊するようになっても、ただのお散歩になる町になのです。
彼を見かけた誰かが、さりげなく声をかけて、車に乗せて自宅まで送ってくれるのです。
「○○さん、毎度おおきによ~。よかったら、乗っていきなよ~」
そんな自然なやり取りの中に、信頼関係と地域の力があります。
私は、看護師をしていた頃、帰宅願望のある認知症の患者さんをご自分のベッドに戻ってもらうことに難しさを感じたことがありました。今思えば、その患者さんにとって、そのベッドには「おかえり~」がなかったのかもしれません。
白浜町では、誰かが無理に説得することもなく、注意することもなく、当たり前のように「ついでにのっていきなよ~」と声をかけるのです。「こんなところまで一人で歩いたら危ないわ~」と注意したりしません。「○○さん、足、達者やの~」と褒めてくれるほどです(笑)
奥さんは、「おかえり~」と言って迎えてくれます。奥さんは車で送ってきてくれた人にお礼を言って、「さあ、お父さん、晩御飯やで~」と言います。また夫婦の日常に戻るのです。
これは、特別なスキルやマニュアルではなく、地域のつながりと、丁寧な関係づくりの積み重ねによって生まれた しなやかなで、さわやかで、さりげない支援です。
白浜町のように徘徊しても「帰ってこれる町」が、もっと増えていくといいなと思います。
