本当に言いたかったこと
Aさんは、10年以上前に乳がんを患って手術をした。それ以来、お乳を隠すようになり、外に出るのを極度に嫌がり、買い物や散歩に行くこともできなくなった。そして精神症状も顕著となったため精神科病棟に入院することとなった。
私は、Aさんの担当看護師。「お買い物に行ってきます。おやつは何がいいですか?」と尋ねると、Aさんは「ウインナー」と言った。「いつものウインナーでいいですか?」と問うと、Aさんは目を合わせることもなくうなづいた。
Aさんはウインナー以外を要求しない、という設定のうえで一応訊いている私がいた。
買い物かごにウインナーを入れながら、ぼんやり考えた。これは、看護か?
入浴の日、Aさんはお乳を隠しながら、服を脱いでいた。
お風呂あがり、私はタオルでAさんの拭き残しを拭いていると、片方のお乳にしこりがあることを発見した。
「Aさん、これはいつからですか?」
「前から・・・・」
「気づいていたんですね」
「うん」
Aさんは、涙を一杯溜めていた。
Aさんは乳がんだった。そして手術をした。
Aさんは、ウインナーだけを要求する人ではなかった。もう片方の乳房にできたしこりを言えずにいた人だった。言う機会ならいくらでもあったのに、私が耳を持っていなかっただけ。
一人で悩み、どうすればいいかわからずに、時が過ぎていくことに身をゆだねていたのか。
看護師としての代理行為とは何か。
おじけづくほどの重圧を感じ、身震いした。
「看護」とは何かについて考えていくことを意図として、「看護師日記」を書くことにしました。私の看護師、看護教育の経験に基づいて表現していますが、人物が特定されないように、また文脈を損なわないように修正しています。