『殺した夫が帰ってきました』を読んで考える「無戸籍の子どもたちの現実」
桜井美奈さんの『殺した夫が帰ってきました』を読みました。この物語は、サスペンスミステリーでありながら、深いため息をつく羽目になってしまいました。特に、私は登場人物の悲惨な生い立ちに「看護師・児玉」の「もっと知りたい」「なぜだ?」が搔き立てられた1冊でした。
和希は、暴力的な夫でありながら、記憶を失って茉菜の前に現れます。彼の記憶の一部が失われたことにより、かつての暴力的な姿は消え去り、新たな平穏な生活が始まります。その裏には深い闇が隠されています。
この物語のカギは、法的に「存在しない人間」「東北の大震災」の混乱がかけ合わさってできた偶然です。この設定が、物語に悲劇のような数奇なめぐり合いがあり、かといってあり得る感じを与えており、サスペンスミステリーを超えた現実を突きつけられています。
この作品を通して、私はふと考えさせられました。日本には無戸籍のまま生きている子どもたちがどれくらいいるのでしょうか?令和2年9月末日時点で法務省が把握していた無戸籍者は合計 3235 名とのことです。大人を含むと1万人は超えているのでしょう。彼らは、学校に行くこともできず、社会的なサービスを受けることもできないまま、生きづらさを抱えているのです。その生きづらさが、「思考の癖」をつくり、常々、アンラッキーを引き寄せているという臨場感が読み手のテンションが下がってしまうほど感情移入してしまいます。
このような状況が存在し、自分が生きるために追い込まれているとしたら。私も同じことをしただろうか。気道が狭くなる感じがします。
悲劇を通して、無戸籍の子どもたちがどれほど困難な状況に置かれているかを考え、彼らに対する支援や社会的な関心を持とうと思いました。そして、そのような子どもの親の境遇にも目を向ける必要があります。
看護師・児玉が何の本を読んでも、看護師の視点で読んでしまっていることに気づきました(笑笑)